第10章 丘を越えて行こうよ
「アシかよ…。ホントひでぇな、お前ってヤツは」
「ふん」
「けどさ、ただのアシなら俺でも構わねぇんじゃねえの?行こうぜ、三望苑」
「お前は加奈子さんと行ってりゃいんだよ」
「加奈子とはもう何回も行ってっからいんだよ」
「あのねぇ、敏樹くん。私初めてなのよ、三望苑」
「ほぉー。そんなモテなかったっけか、お前」
「ずっと地元のアンタたちとは違うって」
「はいはい。で?」
「あー、だからさ。その大事な初三望苑行きをアンタみたいな爛れたヤツと飾りたくないワケ。一也なら少なくとも間違いなく爛れちゃないし?敏樹、加奈子さんは何人目の彼女だ?」
「…………?」
「ハンドル離して指折り確認するなよ。事故ったら億だって言ってんだろ、女誑し」
「女誑しィ!?俺はただモテるだけだ!誑したりしてねえよ!」
「自分で自分をモテるとか、もう馬鹿だとしか……。こうなるともういっそ気の毒だな、敏樹。加奈子さんも何がよくてこんなニヤけたサッカー馬鹿と付き合っちゃってんだか」
「全部だろ」
「わーお。従兄弟と彼女に裏切られた男とも思えない強気さだな」
「裏切られてねぇし!」
「だといいわね、敏樹くん?」
「お前が男ならとっくにぶん殴ってるぞ、俺は」
「あらそう?あー、女で良かったなー」
「…男も女も関係ねぇ気がして来た…」
「いいとこに気付いたところで、残念。浜源に到着でーす。さぁ食うぞー」
「一也に付けてやる…」
「ああ、いいんじゃない?一也の奢りで浜源カラオケ呑みのフルコースいっちゃう?」
「俄然楽しくなって来たな」
「よーし、まずはちゃんこだ、ちゃんこ。鷹谷くーん。詩音ちゃんが来ましたよー」
陽気に言ってから、詩音はフと真顔で運転席の敏樹を見た。
「アンタさ、加奈子さんのことホントに好きなら、ちゃんと聞かなきゃ駄目だよ?」
「…何だよ、急に。何を聞けって?」
「何で一也といたのかをよ」
「何か用事があったんだろ」
ギアチェンジして駐車場に車を停めながら、敏樹は顔を顰めた。
「気になることはすぐハッキリさせとかないと話がこじれ易くなるよ?どうでもいいってんならそれこそどうでもいいけどさ」
車を降りた詩音が、腕を伸ばして欠伸する。
敏樹は運転席で腕組みして口を引き結んだ。
「これが初めてじゃねんだよ。一也と加奈子」