第10章 丘を越えて行こうよ
言い辛そうに言った敏樹に、詩音は腰に手を当てて鼻を鳴らした。
「それが相談か」
「お前に相談してもしょうがねぇのはわかってんだよ」
「そらそうだ。そういうことは加奈子さんと話すのが筋でしょうよ。アタシに話しても何にもならないわ。憶測でああだこうだ話したって疑心暗鬼になるばっかりなんだしさ」
本人に聞け、本人に。
詩音は前髪を掻き上げて渋い顔をした。
駐車場から夏の熱にあぶられたアスファルトの匂いが立ち上っている。不快なような、そうでもないような微妙な匂いだ。通学路を歩いた幼い夏が思い出された。あの頃は汗を煩わしいとも暑いのが厭だとも思わなかった。ただ夏を享受して長い一日を繰り返し積み重ね、他愛なく楽しみ、精一杯遊んでいたものだ。
ちょっとだけでも風が吹いたら、イライラも少しは収まるのに。
汗を拭って溜め息を吐く。
全く、みんなして色気付いちゃってさ。一也までごちゃごちゃしてるなんて全くもって気に入らない。
ひ弱な顔に笑い皺を刻む一也の顔を思い浮かべたら、ますますイライラしてきた。
夏祭り、盛大に扱き使ってやるからな。覚えとけ和也。