第10章 丘を越えて行こうよ
「………で?何よ?一也がいねぇから俺に昨日の差し入れの礼を言いに来たって?」
「いいや。礼なんか言うもんか。あれは慰謝料だ」
「悪かったよ、無神経で」
「いい。お前が無神経なのは今に始まったこっちゃない」
「…そういうところだぞ、詩音」
「どういうところが何だって?」
「いやだからそういう……」
「あぁ!?」
「…だから……」
「そういうところだぞ、敏樹」
「……く…ッ」
「何よ」
「……悪かったよ、チクショウ!」
「チクショウ?」
「…ぐッ、お前、俺なんか地元ンサッカークラブじゃ秋田のレバンドフスキって呼ばれてんだぞ?地域の宝なんだからな!?」
「知らねーよ、何だそのレバニラ豆腐好きってのは?秋の新メニューか。絶対売れないから止めときなさい」
「…レバンドフスキ。バイエルンミュンヘンのセンターフォワードだべよ」
「伊藤ハムか。地元にプリマの工場があるってのにこの裏切り者め」
「ソーセージの話じゃねえ!!」
「なーにがレバンドフスキだ。何で思いきってメッシとかネイマールとか言えないかね。渋いとこついて来やがって。レバンドフスキはソーセージじゃなくピエロギだろ」
「そうだよ、レバンドフスキはドイツじゃなくポーランド出身…て知ってんじゃねえかよ、このヤロウ!」
「誰も知らないなんて言ってないし。レバニラ豆腐好きって聞き間違えただけだし」
「嘘つけ」
「つかないよーだ」
「それがもう嘘だ」
「何だとレバニラ豆腐め。アタシは嘘と坊主の頭はゆったことがないんだよ。てやんでぃ」
「お前暇なんだな?暇だから営業妨害してンだろ!?帰れ帰れ!俺の黄金の右で蹴り出すぞ!」
「…どこに黄金の右なんかあんのよ。どうせなら黄金のハガシでも出して見やがれ。持って帰るから」
「そんな下だんねえモンうちにゃねぇんだよ!」
「何だ。詰まんねぇお好み焼き屋だなぁ」
「フツーのお好み焼き屋だ、バカ」
「フツーじゃないじゃん。暇なお好み焼き屋じゃん。営業妨害しようにも客がいないんじゃしょーがない」
「…今日は暑いから」
「…苦しいぞ、店主」
「しょーがねーの!暇なときゃ暇なのが客商売なんだよ。閑古鳥にいちいち目くじら立ててたらますます客が寄り付かなくなるわ」
「ふーん」
「…か…感じ悪ッ」
「フン。しつこいわね。何を今更よ」