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第2章 並



薄ら笑いする十市に、並はきつい目を向けた。

「黙れ、口減らず。あっしは行くと行ったら行くんじゃ。お前こそ約し事を違えるなよな。許さんぞ」

「違えんよ」

短く答えて十市が目顔で戸口を指した。

「去んで寝ろ。まさかに島へ夜具は持ち込めんぞ。今のうち温い寝床でぐっすり寝ておけよ」

並は跳び上がる様に腰を上げ、破れ屋も倒れよと言わんばかりの勢いで引き戸を開けて表に出た。

馬鹿にして!ふざけるな!ふざけるなッ!

ギリギリと奥歯を噛み締める並の頭に企みが上手くいった喜びは微塵もなかったし、海への思慕は怒りに紛れて吹き飛んでいた。

それすら気付かずに、気短かで物知らずの幼い娘はずかずかと家路を辿る。

里の灯りがぽつぽつと見える。乏しい灯りだが安まる眺めだ。それを見止めた並は、少し気をおさめて小さく欠伸した。

ふと振り返ると、小屋の灯りは消えて十市が表へ出るところが目に映った。

···何処へ行くんじゃ、今時分···

一瞬訝った並だったが、ふたつめの欠伸が喉を昇って来たので考えるのを止めた。

まあ、いい。後は明日の事じゃ。今日のところは寝ておこう。

並は里へ下り、十市もまた何処へかも知れず屋を空けて、互いの夜は更に更けて行く。

月のない夜の漆黒の深更。













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