第10章 丘を越えて行こうよ
「望むところだ」
「はぁ。わかった。付き合うよ」
「よぉし、それでこそ男だ」
「全然褒められた気がしないなぁ」
「そりゃそうだ。別に褒めてないからね」
「ひどいや詩音ちゃん…」
「ドラえもーんてか?あははははは」
「ははは、ジャイアンがひどいんだよー」
「誰がジャイアンか。ビール返せ」
「もう呑んじゃったよ」
「へえ?意外にイケるクチ?意外だ。びっくり」
「色々付き合いがあるから」
「…ふぅん…」
「皆呑兵衛なんでね」
「あー、そう…。大変だねぇ…」
「…どうかした?」
一也が訝しんで目を瞬かせる。詩音は首を振ってビールを煽った。
「どうもしない。始まったよ。観ろ観ろ」
「そう?大丈夫?」
「大丈夫。しつこいな、もう」
「ごめん。何ともないならいんだよ」
ビール呑みながら人に気なんか遣いやがって。
子供の頃のまんまだった筈の一也が、少し違って見えた。こんな一也は知らない。
やっぱり時間は流れているのだ。誰の上にも彼の上にも。
何となく心許なくなって、詩音は膝を抱き抱えてTVの画面に観入った。
何だか、取り残されたような心持ちだった。