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第10章 丘を越えて行こうよ



「そんな風に思い通りになるんなら誰も延々と苦労しないんだよ、詩音ちゃん…」

「そうか…。延々と苦労してるのか…。何か如何にもアンタらしい恋愛してんのねぇ…」

「…ほっといてくれよ」

「はいはい。ほっときますよ。まぁ頑張ってよね。式には呼ばなくていいからね。呼ばれても絶対いかないし、近所から静かーにじーっと幸せを祈ってますよ」

「…だからほっといてくんないかな」

「誰も構うなんて言ってないでしょう?優しーく生温ーく見守っててやるっつってんの。…あぁ、奥さんオカマバーに連れてったりすんなよ?」

「ほっといてよ」

顰め面の一也が空の缶ビールをコトンと床に置いた。

「冗談は兎も角、さっさと幸せになんなよ。ほっとくとアンタなんかもうずっとこのまんまで寿命を全うしそうで心配だわ」

「要らない心配してないで夏祭りの算段してくんないかな?俺も結構手一杯で…」

「さあ!何を観る?いち押しはジェーン・ドゥの解剖だよ。ドントブリーズのカッコいいじいちゃんもお薦めね。怖いじいちゃんだけれども。アイアムアヒーローから水曜どうでしょうの四国八十八か所へ流れるのもいいねえ。それともキングのitいっとく?どうせ観てないだろ、どれもこれも」

「キングならシャイニングとキャリーを観せられたじゃないか。詩音ちゃんと敏樹に無理やり」

「お!よっく覚えてたね!?あれはホラーファンなら観とかないといけない絶対古典よ?よし、バタリアンと死霊のはらわたもいっとくか!」

「知ってると思うけど、俺ホラーファンじゃないし」

「うん?ちっちゃいコト気にするな!今そうじゃなくてもこれからそうなったらいんだからさ」

「そうなる予定もないんだよ、詩音ちゃん」

「大丈夫、絶対そうならせてみせるから」

「…もうホントほっといてくんないかな、あっちこっち…」

「ほっとかれたきゃ早く彼女つくんなさい。そしたら流石に構やしないからさ」

「この調子じゃその彼女がますます出来辛くなるよ」

「頑張れ」

「静かに頑張らせてよ」

「どう頑張ったって結果は一緒だ。大丈夫」

「どういう意味だよ、それ」

皿に移してお盆にのせたお好み焼とおかわりの缶ビールを一也の前に置き、詩音は床に座り込んだ。

「のこのこ顔出すからこうなんのよ。気がすむまで付き合って貰うからね」

「長い夜になりそうだなぁ」

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