第10章 丘を越えて行こうよ
「いや、男も女も嫌いって言うから、詩音ちゃんには要るかなって…」
「要るかヴォケエェェ!!!大嫌いの項目がも一個増えるだけだわ、バカ!!」
「好きの項目がひとつ増えるかも…」
「お前がひとりで秋田まで出張って勝手に項目増やして来りゃいいだろ!?傷心のアタシを巻き込むな!」
「詩音ちゃんは凄いよね。傷心を感じさせないとこが凄い」
「…晩飯はお前の奢りで黄鶴楼のコースだな…。海老チリダブルで度数の低ーい老酒二本付き」
「度数の低い老酒って一本幾らか知ってるの?詩音ちゃん」
「知ってるわよ、一也くん」
「花月でラーメン奢るよ。ビール付き」
「ラーメン?気分じゃないなぁ」
「じゃ敏樹の店でお好み焼」
「敏樹?そういやお店継いだんだっけ、アイツ」
「もう結構なるよ。おじさんが腰悪くしちゃったからね」
「敏樹の店か…。兎に角安くあげようとしてんな、お前」
「そりゃそうだよ」
「中華のコースは駄目ですか。傷心の私を慰めてもバチは当たりませんよ」
「駄目だよ。黄鶴楼でコースなんてデートになっちゃうじゃないか」
「またそれか。どんだけアタシとデートしたくないのよ。失礼な」
「デートするならデートするって決めてちゃんとしたいんだよ。なし崩しじゃなく」
「アンタもしかしてデートもしたことないの?」
「ないよ」
「…そう…。何か悪かったわね」
「気の毒がられると反って凹むから止めてくんないかな…」
「あらそう。じゃ笑っていい?」
「…車出すから敏樹の店に行こう。お好み焼奢るよ」
ブランコを揺らして一也が立ち上がる。
「まぁいいか。お店なら少なくても冷房効いてるもんね。ここにいるよりマシってモンだわ」
詩音もそれに続いて、二人は揃って公園を出た。