第10章 丘を越えて行こうよ
「あの人もちょっとは世間の水に浸かんなきゃね。アンタ、フォローしてやんなさいよ?」
「な、何で?詩音ちゃんがしたらいいだろ?やだからね、俺は」
一也は顔の前で手を振って激しく拒絶のポーズをとった。
「あんま得意じゃないんだよ、女の人と話すの…。特に今は加奈ちゃんはマズイって言うか、あの、ちょっと…」」
「女の人と話すのが得意じゃない?ふーん…そう?ずっとペラペラ喋ってるけど、そうだったの。へえぇ」
「いや、何て言うか、えーと、まずちゃんと話を聞いてくれないかな?」
「聞いてるわよ、ちゃんと。で?女の人と話すのが得意じゃないけど、私とはペチャクチャ喋ってるってのはどういうこと?」
「詩音ちゃんはちょっと違うって言うか…」
「ちょっと何が違うのよ?ものによっちゃちょっとだろうが沢山だろうが大差ないくらい失礼な話になると思うんだけど、そこらへん大丈夫か、一也?ええ?」
「大丈夫…だと思う」
「どこらへんが大丈夫だ?あたしゃ女と違うってか?よおし、今度こそ歯を食いしばれ、鼻血は呑むなよ、呑んだら吐くぞ!?どうだ?準備はいいかな!行くよ、行っちゃうよ!?かーずーやーくーん!」
「そんな準備は出来ないよ。本当に詩音ちゃんはずっと不条理なまんま育っちゃったんだな。一緒にいると懐かしいを通り越して自分が子供のまんまみたいな気になるよ…」
「懐かしいなんてフワフワしたモンじゃないぞ。これはリアルです。子供のまんま?全くだ。未だにそんだけ変わりないお前が言うと当たり前すぎて、いっそ図々しい、わッ!」
ボカンと一也の頭を叩き、詩音は拳を開いて手をパタパタと振った。一也、この石頭め!
「兎に角、連絡はアンタがとりなよね。私なんか気ばっか遣わせちゃう出戻りなんだからさ。ずっと地元住みで信用のあるアンタが繋ぎに入った方が絶対いいんだから」
「女の子は女の子同士の方が…」
「黙れデコ助。女と女の間にゃな、男なんかに思いもつかないような深ーくて暗ーい溝があったりなかったりすんだよ。あー、ヤだヤだ、男も女も大ッキライだよ、ホントにもう!」
「…秋田市まで出張ればオカマバーがあるって聞いた事があ……」
「いよいよ黙れ、デコッぱち!何だそれ。どうせ敏樹か何かに吹き込まれたバカ情報だろ!?大体オカマバー情報要るか!?アンタ要るワケ、オカマ情報!?」