第10章 丘を越えて行こうよ
手をとられなかった事に気付きもしない詩音に、また一也が苦笑する。
詩音は紗のカーテンを開いて表を覗き、一也の様子にはてんで無頓着に首を傾げている。
「ねえ。ここら近所の子供ってさ…」
「子供?赤ん坊のこと?」
「や、もちょっと育った、小学生辺り…の?外遊び出来そうなくらいには大きい子供、かな?」
詩音の頼りなげな問いに、一也は首を振った。
「ここらは今んとこ、赤ちゃんしかいないよ。美佳子の子くらいかな。それだってまだ幼稚園に上がってないし」
「そう。じゃ、あれか。夏休みで遊びに来てんのかな」
「ああ、あるかもね」
「この暑いのに元気だよ。こっちはゲンナリだってのに」
襟元をパタパタさせて、詩音は顔を顰めた。
「さ、とっとと行くよ。どっか適当に話せるとこ」
詩音から目を反らして蚊取り線香の場所を動かした一也が、溜め息を吐いて立ち上がった。
「わかったよ。じゃ適当に」
「うん、適当によろしく」