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第8章  はんぶん コルハムの語り ーセタとマッカチー



何がこうもこのふたつを結び付けているのだろう。
知りたい。
胸が高鳴る。

朱い灯りは、激しく、そして美しい。
夏の朝焼けの空のように。

オアルニカプ(臆病者)のキムンカムイが首元のネツを叩き落とそうと藻掻く。
汐崎ニシパはチマを横に転がしてその下で血と草と泥に塗れた猟銃を手に取った。
コイツ、チマを庇いに走ったのではなく、猟銃を取りに来たのだ。しかしそれが正しい。キムンカムイを仕留めなければみんな殺される。

ネツがキムンカムイから離れた。キムンカムイの首が血を噴く。
驚いた。致命傷とまではいかないのは血飛沫の嵩でわかるが、それでも鞠のようなポンセタが頑強なキムンカムイの皮を食い千切るとは。
朱い灯りの揺らぎの中、牙を剥き憤怒の形相で構えるネツの姿が、ホロケウ(狼)になる。赤茶けた毛のポロホロケウ(大狼)。
息を呑んだ瞬間、耳が破裂したかと思うような裂音と激しい衝撃が身を襲った。汐崎ニシパが発泡したのだ。キムンカムイの眉間が血を噴き、巨体が仰け反った。

「…クソが…ッ」

ニシパが低く毒づく。
倒れかけたキムンカムイが、咆哮を上げながら危うげに体制を持ち直した。

「弾きやがった…ッ」

噛まれた腕を垂れたニシパは、咄嗟にチマを片腕で肩の上に担ぎ上げた。
ネツが、赤毛のホロケウがキムンカムイに跳びかかる。応えて振り上げられたキムンカムイのその爪先に、小さな耳がまだ突き刺さったままなのが見えた。
ニシパが走り出す。肩の上でチマが呻き声を上げた。

「ニシパッ、…エケッテ(駄目)…ネツ…ネツ…ッ」

朱い糸が長く尾を引く。
汐崎ニシパは獣のような足取りで繁みを走った。キムンカムイの咆哮が追い縋るように聞こえて来る。

「黙っていろ。舌を噛むぞ」

歯を食いしばって駆けながら、ニシパはまた笑う。

「これ以上傷物になられちゃ困る。大人しくしてくれ」

目まぐるしく流れ去って行く景色に圧倒されながら、私はやっと気が付いた。

このままではウララを出る事になる。

私が何より大事にして来た、私自身で選び取った、このウララでの自由な毎日。
それから切り離される。

背筋が寒くなった。
他所での暮らしを知らない。
このウララではない場所で、今までのように自由に思うまま、思い切り生きる事が出来るか?
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