第8章 はんぶん コルハムの語り ーセタとマッカチー
朱い魂の繋がりが碧い魂のそれと較べ、魂と魂の交ざり具合が強過ぎて不吉ですらあっても。
これはもしかして執着というウェンケウトゥム(悪念)ではないか。セタがマッカチに?マッカチがセタに?
それとも相身が互いにか?
多分そうなんだろう。
セタとマッカチ。
だがそれでも朱碧このふたつの灯りは尊い。
「アィ…ッ」
小さな悲鳴にハッと目を向ければ、マッカチが転んで下生えに顔から突っ伏しているところ。
キムンカムイの目が、マッカチを捕らえた。
感心したのはマッカチがセタを離さなかった事だ。そして、セタがマッカチの腕から逃れなかった事。
セタの目もまたキムンカムイを捕らえていた。力の失せていない目は攻撃的だ。ソルマ(薇)の綿毛で出来た鞠のようなセタのくせに、キムンカムイに怖じ気ていない。
なのにマッカチの腕から逃れないのは、セタの覚悟の現れだ。
下手に動いてマッカチが自分を庇う危険を犯さないよう、じっとしている。キムンカムイに余計な警戒を抱かせないよう、それでいてキムンカムイがいざ踏み出したならば何時でも飛び出せるよう、爪を立てて地を噛んでいる。
ポントートウタリケ(チビ)のくせに、肝が座っている。
キョッキョッキョッ。
エソクソキ(アカゲラ)が啼く。"美しい嘴"の名を持ち、家族の言う事を聞かず神から罰を受けたマッカチが变化したと言われる朝啼き鳥。
キムンカムイとセタの視線がぶつかった。
朱い糸と碧い糸が絡む。
見守りながら何時の間にか握った拳に汗が、生温い水が湧く。雨垂れの汗。ヒトのもののように塩辛くはないが、だとしても矢っ張り間違いなくかく雨垂れの汗。