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第8章  はんぶん コルハムの語り ーセタとマッカチー



澄んだ夏の朝に差す赤い朝陽は吉兆。

目を疑うくらいに美しいキナシコトクル(白蛇)や眩い金毛のユク(鹿)、七色のサキペ(鱒)、三重のラヨチ(虹)を見たのもこんな朝だった。

私が産まれて既に幾つかの四季が巡っていたが、初夏の朝に産まれた私に夏はとりわけ好ましい季節だ。

初夏は獣が浮かれる。

殊にキムンカムイ(羆)。
繁殖期に入って浮つき出すのも気が荒くなるのも他の獣と変わりないが、何せ彼らは元が賢く獰猛だ。常より一層付き合い辛くなる。

とは言えこれは夏の深山の習い、営みというヤツだから、上手くやり過ごすしかない。

深山にうかうかと他所者が足を踏み入れるのは愚かな事。


普通繁殖期である筈の今時期、全く珍しく早くも身籠った5年子のキムンカムイの大雌が身体を横たえた穴蔵がある。この時期身籠っているキムンカムイには初めて会った。だから私は興味津々、巣穴のその縁、羊歯の葉に宿って朝の冷気と身籠ったキムンカムイの不思議な匂いを楽しんでいた。

そこへ不意にそいつらは現れた。

セタ(犬)とマッカチ(女の子)。
共にまだ幼い。

赤い陽の差す、モピリカクンネイワ(静かな良い朝)。

この出会いは私の習いで言えば吉兆である筈だが、その答えは未だ出ていない。

ただ、連中があまりにひとつなのが気になってそれがむしろ不吉な気がした。何がひとつと言って、ふたつの魂がひとつになっている。

これはそれこそ子を育てるキ厶ンカムイ、いや、他の獣にも見られる。勿論全ての山獣たちがそうなる訳じゃない。元々そう見かけるものではないのだ。
思い思われるココロが交じり合って重なり合って、ふたつがひとつになる。短な生の中でほんの僅かな間訪れる不可思議な魂の形態だ。
発情期、正に今頃、番を得た雌雄にもほんの、ほんのたまさか見受ける。そういう番は不思議と年を重ねてまた交わる。滅多とないが、稀にある。
ひとつになるというのは凄く稀有な事だ。でも、折々に見かけはする。

険しい崖の腹に咲く青いピリカノンノ(美しい花)や高い高い樹の先端に生る瑞瑞しく赤子の頭程もあるアケムピ(木通)のように。

とは言え、セタとマッカチは、ひとつにならない。なれないだろ?
種が違うものが交じり合っても芽は出ないのだから。

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