第14章 君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな
そろそろ登る大きな月が、この所どら焼きに見えて仕方ない。
秋の風が終わりを告げて、空風が吹き冬の匂いを運んでくる。
庭の梅の木も次の春に備え葉をすっかり落とし、わざわざ火鉢を焚いて居座る縁側から見る庭も、風景は寂しいものだ。
そうか、早く雪が降ればいいのだ。
冷たくやわらかな、白い綿毛でここが覆われれば、また違う味わいが出るに違いない。
そこで、冬の狐の狩りを披露してやろう。
実に滑稽だと奴は笑うかもしれないが、それでも見てもらいたい。
一つでも彼の中で私が生きられれば、もう、文句はない。
自慢の毛皮の上から半纏をかぶり、温かな身体に冷える鼻先が気持ちいい。
大きく息を吸って吐き出せば、白い筋が立ち上る。
それもすぐに風に攫われてしまうが。
あぁそうだ。
そろそろ山の鹿たちは落ち着く頃だろう。
雪が降って山厳しくなる前に、縄張りの様子も見ておきたいな。
独りで行ったら、煩く言われるだろうか。
言われるだろうな。
過保護で、ここに居る時間さえ厳しく指導されてしまうのだから。
ヨシノは許してくれると言うのに。
シカマルは心配性だから。
あぁほら。
噂をすればというやつじゃ。
いつまでここに居るんだよ。と言われるに違いない。