第12章 変化の兆し
「この殺生丸が、人間ごときにそのような真似……すると思うのか?」
「へ? あ、えっと……あはは、で、ですよね……? 勝手に慌ててしまってすみません」
殺生丸はそのまま櫻子の首元へと甘く噛みつく。
「ちょっ!!?」
「……黙っていろ」
ちりっとした痛みが櫻子を襲う。首筋を這う舌があまりにも生々しくて、みるみる内に櫻子の頬は桃色の染まっていく。黙れと言われて大人しく黙ったはいいものの、このまま何をされるのかは予測不可能だ。
「つまらん刀の宿命とやらに張り切っているお前も」
「あ……やだっ」
「半妖と言葉を交わすお前も」
「殺生丸さ……っ」
「全てがこの殺生丸を苛立たせる」
「……っ」
殺生丸の唇は、首筋から鎖骨へと下りていきそこでもちりっとした痛みが走る。
「弱いくせに強がりを言い、どんな敵であろうと臆することなく立ち向かう。こんなにもお前の身体は脆い……刀の一振りで大きな傷が出来るほどに。人間の身体は柔らかい」
「ま、待ってくださ……っ」
「傷が痛むから私のところへ戻って来れなかったのか? 犬夜叉がいたから私の居場所を探そうとしなかったのか?」
「え……?」
「何故すぐにこの村を出ようと思わなかったのだ。犬夜叉とそんなに一緒にいたかったのか?」
「な、何を言っているのですか……?」
「私がお前に怪我をさせたからか、崖から突き落としたからか。だから、もう必要ないと思っているのか」
「え……?」
殺生丸は噛みつくように、櫻子の唇を奪う。
「私だけでいいと言え。くだらん宿命も貴様の大切にする現代とやらも、いらぬと言え」
櫻子の視界に入るのは、彼の綺麗な顔だけ。
「この感情に……名などない」
櫻子の思考は止まったまま、ただあるがままに殺生丸の腕の中へと優しく抱かれている。彼の変化を初めて肌で感じながら、そして戸惑い言葉をなくす。
「何故なら、私はこんな感情に駆られたことなど生まれてこの方、一度もないからだ」
これが、変わっていくということなのかもしれない。