第15章 一重梅と共に
魔法は解けていく、貴方も、その全ての人が。永遠はない、けしてない。
櫻子から殺生丸のぬくもりが消えたと同時に、櫻子は目を開ける。
そこは見慣れた場所、自分の家の蔵だ。
「これは……」
手の中にあるのは、初めに手にして戦国時代に来た時に使った例の鏡。
「殺生丸……さん……っ」
櫻子はその場で崩れ落ちて泣いた。
想っていた、愛していた。だからこそ、もう此処は彼のいた場所ではないことを知って、もう彼はいないのだと知って櫻子は泣き続けた。
会えないのだ。もう二度と。
櫻子の木の下で見た彼の綺麗な銀色の髪も、綺麗な瞳も、あの少し低くてけれど優しい声も。全てが遠くへ消えてしまった。
「貴方を忘れて別の誰かを好きになるなんて……そんなことっ、出来るはずがないじゃないですか……馬鹿なんですかっ、貴方は……!」
大事に櫻子は鏡を抱きしめて、涙を流したまま蔵を飛び出した。
走って走って走って、向かったのは大きく咲き誇る家に咲く桜の木。紅色ではないけれど、白く淡い桃色の花が咲いては舞い散って太陽の光に晒されている。
「え……っ」
目の前に桜の花びらが舞い降りる。
その先にいる、桜の木の下に人を見て……櫻子は口元を押さえる。
「嘘……ですよね……っ?」
銀色の髪が柔らかな春の風に吹かれて、靡いていく。
「櫻子」
その声を、今もまだ覚えている。聞き間違えるはずがない。
純愛なんて言葉だけじゃ、何も語れないのかもしれない。好きだという想いも、愛しているという想いも、全部心の中心から湧き出ては嘘偽りなく胸の奥を震わせる。
彼女が見た桜は、きっと今までで一番美しかっただろう。
きっと、そうであれ。