第12章 変化の兆し
「な、何するんですか! いきなり……」
「あの巫女がいては邪魔だったのでな。場所を変えた」
殺生丸は櫻子の髪に触れると、目を伏せる。
「何故人とつるめる、半妖などと一緒にいれる。何故お前は……自分を傷付けた相手だというのに、怖がらない」
「どうしてと聞かれましても……答えは決まっています」
櫻子はそっと殺生丸の両頬を包み込む。
「皆、悪い人ではないからです」
「……私もか?」
「羅刹桜牙で私を傷付けた時、聞こえていましたよ。その刀を持つに相応しいのは……私だと口にする貴方の声が」
優しく何もかも包み込んでしまいそうな、そんな櫻子の心を知って殺生丸は瞳を上げた。不意に顔を近付いてきて、櫻子は咄嗟に殺生丸の唇を掌で覆った。
「……え? あ……っ」
「……」
あまりにいきなりのことで、櫻子も自らが咄嗟に取った行動に驚いて慌て始める。殺生丸は何か言いたげにじっと櫻子を見つめていた。
「えっと、その! わ、私の思い違いだとは思うのですがっ、殺生丸さんの綺麗なお顔が近付いてまるでこのままキスされるのではないかと思い込んでしまいまして!!」
「……キス?」
「うっ……あ、この時代では通用しない言い方なんですよね。接吻のことです」
「……」
殺生丸は口元から櫻子の手を剥がすように、彼女の手首を掴む。それに更に慌てた櫻子は、腰を引くが殺生丸の手がそれを許さない。