第12章 変化の兆し
「……櫻子、お前は今自分が何をやっているのかわかっているのか?」
「わかっています。だから少し待って頂きたいんです。私はちゃんと、殺生丸さんとお話がしたいんです」
「……お前は甘い。甘すぎるぞ櫻子。そうして背を向けている間に、斬り捨てられるやもしれない」
「桔梗さんが構えてくれているうちは、大丈夫だと思います」
そう言って微笑む櫻子に、桔梗は「好きにしろ」と弓を構えたまま言い放つ。櫻子はほっと息を吐くと、殺生丸へと向き直った。こうして対峙するのは、何度目だろうと思いながら。
「傷、痛むのか……?」
殺生丸はまた一歩、櫻子へと距離を縮める。もう手を伸ばせば届く距離にある。殺生丸は白い手を伸ばして、櫻子の頬を包み込んだ。
「……平気です。犬夜叉さんに助けて頂きましたから」
その一言に、殺生丸の手がぴくりと反応を示す。
「お前は、あんな半妖がいいのか?」
「何がですか……?」
「この殺生丸を目の前にして、あやつの名を口にするのか」
「この傷は、貴方につけられたものです。少しくらい痛いことを口にしても、許して頂きたいです」
「お前はいつも分け隔てなく、他人とつるむのだな」
殺生丸が桔梗へと視線を向ける。互いに目が合う、と同時に殺生丸はあろうことか櫻子を抱え瞬時に飛び去る。
「貴様……っ、待て!!」
桔梗の声が遠ざかっていく。
だいぶ離れたところで降り立つと、ゆっくり櫻子を下ろした。