第12章 変化の兆し
「まるでその言い草、奴のことをよく知っているようではないか」
「え!? そ、そんなことはありませんよ! 私などが殺生丸さんのことを詳しく知っているだなんて……」
「ほぉ、そのようなことを申すのか?」
桔梗が突如弓を構える。櫻子は後ろから聞こえてきた声に、反応するように振り返る。
銀色の髪、鋭くも冷たい瞳。月が照らし出す彼の姿……間違うはずがない。殺生丸がそこに立っていた。
「お前は殺生丸……ッ、こんな人里近くまで来て何用だ!」
「何用……だと? 私はとある刀を取りに、近くまできたまでだ」
櫻子が殺生丸の腰へと視線を向ける。その腰には、鞘に納められていない羅刹桜牙が刀身をむき出しにささっている。刀身は綺麗な銀色のままで、あの時のように紅色に色付いてはいなかった。
「こんなところで何をしている、櫻子よ」
「え……」
「……怪我はもうよいのか」
「……っ」
無意識に櫻子は自らの肩を手で覆う。その仕草を見て、殺生丸は少しずつ櫻子へと近付いて来る。桔梗は一発、殺生丸の真横へと弓を放った。
「……何の真似だ。それで牽制したつもりか」
「櫻子に近寄るな。次はあてるぞ」
「貴様には関係のないことだ。私と櫻子のことに、首をつっこんでくるな」
「妖怪と人間であるお前達二人に、何があるという? 殺すか殺されるか、ただそれだけの関係だろう。大人しいふりをして、本当は櫻子をいつ殺して刀を奪うか機会を伺っていたのではないのか?」
「……」
「櫻子は玉依姫の魂を持ち、浄化の力を持つ。お前みたいな妖怪に、櫻子を預けるつもりは毛頭ない」
「き、桔梗さん! 少し待って頂けますか!?」
櫻子は両手を広げ、まるで殺生丸を庇うかのように桔梗の前に立つ。