第12章 変化の兆し
「つまり、紅葉がお前の身体を支配し本来の羅刹桜牙の力であろう奥義で、悟心鬼という鬼を倒し……しかし殺生丸からは紅葉は刀に相応しい人間ではないと奪い、お前に傷を負わせ崖から突き落としたと」
「あ、はい。だいたいはそんな感じなのです」
「紅葉が相応しくない……か。ふっ、そうかもしれないな」
「それはどういう意味ですか?」
「あやつは玉依姫として、刀を封印することと他人に渡らぬよう守るのが使命だった。しかしそのためにある程度の力量は必要だった。勿論その力量、刀の扱いも申し分はなかった。しかし……あやつは力を強く求めた。全てを薙ぎ払える力を、と」
「力を求めることは、よくないことなのでしょうか」
「そうではない」
真っ直ぐに櫻子を見据えて、桔梗は彼女へ言い聞かせるように言葉にする。
「力への渇望は一番醜い感情を産み易い。ましてや、巫女であるはずの玉依姫が望むような代物ではない。あやつは……力を求めることで、知らず知らずの内に魂を穢してしまったのかもしれない」
「魂の穢れは……心の穢れ」
「そうだ。いつの間にか、そこから刀に呑まれてしまったのやもしれない」
誰もが少なからず力を求め、強くなりたいと願う。それは単純な体力だったり、技量だったり様々だろう。力の使い道は人それぞれであれ、力を手にすれば多かれ少なかれ人は驕っていく。
その心が生むものは、邪悪な思いと止まらない力への欲求。