第10章 紅色の刀身
「試してやろう。来い」
「え……? な、何がですか?」
「お前の刀の腕で、人が殺せるのか試してやると言っている」
「……っ、どうして急にそんな……」
「急ではない。ずっと、思っていたことだ」
二人の間に異様な空気が流れていく。殺生丸の目は本気だ、冗談なんかではない。それくらい櫻子にもわかってはいた。それでも、彼に刀を向けることがどうしても出来ない。それは情のせいか? それとも単純に怖いだけか。
「どうした、何故刀を構えぬ」
「私は……殺生丸さんに刀を向けることなど……出来ません」
「……だから貴様は……甘いと言っている!」
殺生丸は思い切り刀を振い、櫻子から羅刹桜牙を弾き飛ばした。櫻子の手から離れた刀は、二人のすぐ近くの地面に刺さる。
「あ……っ」
「いつまで甘いことを抜かしているつもりだ。私に刀を向けることが出来ない? 私は出来る、貴様に刀を向けることなど造作もない」
天生牙の刃が、真っ直ぐに櫻子に向けられている。
「刀を取れ、櫻子。お前が自分の使命を全うしたいならば、好きにしろ。ただ……刀を握るなら、みっともないところを私に見せるな愚か者」
「すみません……」
「やはりお前に、刀は似合わぬな」
「え……?」
殺生丸は不愉快そうに天生牙を鞘にしまう。櫻子は慌てた様子を見せるが、殺生丸にはどうでもよかったのか……初めて羅刹桜牙を手に取る。それを見た櫻子は、ゆっくりと目を見開いた。