第10章 紅色の刀身
「相手がいなければ、そんな自主練何の意味があるというのか」
「それはそうかもしれませんが……大切なことですよ? 日々重ねる努力こそ、明日の糧になる……です!」
笑顔で殺生丸にそう答える。そんな櫻子を眺めながら、殺生丸は腰を下ろした。見られていると思うと、なんだか動きがぎこちなくなるものの、見られることにはある意味慣れているらしい。櫻子の動きもいつも通りへと変わっていく。
動きの一つ一つが美しく、風を斬るようで綺麗だけれど人を斬るという行為を思うと、少し型にはまりすぎているようにも思う。殺生丸は難しい顔で彼女の動きを観察している。やはり……というか、彼は初めから気付いていたが櫻子に人を斬る刀は一切身についていない。
「お前、刀は習ってきたのかもしれんが……それは全て人を斬る為の刀ではないな」
「……! はい……そうです。私の時代には、人を斬る為の刀を教えてくれる場所は存在しません。たぶん……」
「何故誰も教えてくれぬのだ」
「えっ……知る必要がないからですよ! 私の時代には、妖怪はいませんから」
「しかし薄汚い人間は存在する。人間とて、同じ人間を殺す生き物だ。刀を突き立てたいとは思わんのか?」
「さあ……どうなのでしょう? それは、被害者の身内にしかわからない気持ちなのかもしれません。それか、被害者本人でしか感じることのない感情かもしれません。あ、いえでも絶対ではありませんねそれも……。人を殺したい、殺してみたいという人間は私の時代にもいると思います」
殺生丸は、腰にある天生牙を抜くとあろうことか櫻子と対峙する。