第10章 紅色の刀身
「いつまでも貴様がその程度ならば、完成に興味も薄れていく。この刀、すぐにでも私の物にしてくれよう」
「やめて下さい! その刀を、手離して下さいっ」
先程とは打って変わって、鋭い目で殺生丸を強く睨む。どうしてそこまでこの刀にこだわるのか、それが彼女のこの世界にいる意味だからなのか。もしそうだとしたら、なんて愚かで残酷なのだろう。
「お前にとって、そんなにこの刀は大事なものか?」
「それは……っ」
「この刀をお前は本当の意味で、使いこなすことも出来ぬのにか? そう鬼に言われていたな」
「……っ」
「……ふん」
殺生丸は徐に刀を櫻子へと渡す。櫻子は難しい顔をしてはいるものの、迷わず刀を受け取った。
「私にとって……この刀は証です」
「証だと?」
「はい……。私が確かに此処にいる、一つの証です。えっと、馬鹿だと仰るかもしれませんが……この刀の奥義を使いこなせるのは、玉依姫だけなんですよね? それって私の為にこの刀は存在してくれているみたいに思えて。いえ、そんなことではいけないのですけど。なんというか……私は此処にいて、いいんだなって思えるんです」
大事そうに刀を鞘に戻す櫻子。殺生丸は何も答えない。だからなのか、櫻子もまるで独り言のように言葉を続ける。
「私はこの時代の人間ではありませんから、いずれは元の場所へ帰るんだと思います。それが勿論自然なことですし、初めからわかってはいたつもりなんです。でも少しだけ寂しく思い始めている自分を知って……変ですよね。こんなにも此処は、妖怪が沢山いて私は命を狙われて、沢山怖い思いをするというのに」
困ったように眉を潜め、櫻子は笑う。櫻子がそう思えるのは、少なくともこの時代に情を持っているからなのだろう。