第9章 一瞬の間
「消えて……しまえばよいのだ」
彼の手は、それでも彼女を傷付けない。その手が本当に求めているものは何なのか、すり抜けていく彼女の髪を眺めながら、殺生丸は瞳を閉じた。
二人を邪魔するものは何もなかった。どうしてか、不思議と穏やかな時が二人の間を通り抜けて行った。
先程の出来事が嘘みたいに、だ。
ふと、櫻子の瞳がゆっくりと開かれる。空を仰いで、虚ろに世界を映し始める。
「あれ……」
櫻子の視界の中に、見たことのある着物が映り込む。少し視線を下げれば、隣に呆然と座っている殺生丸がいた。
「せ、殺生丸さんっ!?」
まさか黙って彼が隣にいるなんて思いもしなかった櫻子は、驚きのあまり飛び起きる。しかしその衝撃で右肩の痛みがぶり返し、櫻子は顔を歪めた。
「いっ……」
「起きたら起きたで騒がしい奴だ」
「あ、えっと……すみません。あの、鬼は……どうなりましたか?」
「消えた。お前も見たはずだ」
「……そうですか、本当に倒したのですね」
「痛むか?」
「え?」
殺生丸は櫻子の肩へと視線を向けている。
「だ、大丈夫です! たぶんっ……酷い怪我ではないといいのですが、服の上かだだとわかりにくいので、後で確認しておきます」
「後で……。面倒だ、今見る」
「え……? あの、それはどういう……えっ!!?」
殺生丸はあろうことか、櫻子の服を乱し始め右肩を露わにさせる。