第9章 一瞬の間
「なにっ……!?」
手負いの二鬼、三鬼は予想外の攻撃に対応できず竜巻に巻き込まれていく。
「玉依姫め……っ! 悔しい、悔しいぞ玉依姫よッ!!!」
鬼の悲鳴が重なり合って、竜巻が消える頃には二体の鬼の姿は消え去っていた。
どくんっと、刀が鼓動をした気がして櫻子は刀を見つめた。
「淡く……桃色の色付いて、いる?」
刀身は淡い桃色に染まっていた。もしかしたら、先程の鬼達を倒して刀に力が戻った証なのかもしれない。そう思った櫻子は、ほっと安堵したのか気を失うように地へ再び崩れ落ちた。
「おい」
殺生丸が呼びかけるが、櫻子は微動だにしないどころか答える様子さえない。
「……死んだか?」
しゃがみこんで、櫻子の頬を殺生丸はそっと撫でてみる。体温はある、冷たくはない。微かに息をしている。それだけ確認すると、横へ座り込んだ。何をするでもなく、ただ隣に。
「お前はどうして、此処にいるのか……」
色のない瞳で、殺生丸は彼女を見つめる。今此処で、彼女を殺すかもわからない男を前にして。何を思うこともなく、眠り続けている一人の娘。
「私が怖くはないのか?」
その声が、櫻子に届くことはない。だからなのか、殺生丸は隣で言葉をかけ続ける。彼女の耳にはけして届いていないと知りながら。
「お前みたいな人間は嫌いだ。強がるばかりで、見ていて鬱陶しい。さっさと死んで私の前から消えてしまえ」
そっと、殺生丸は櫻子の髪を一束するりと掴み上げた。