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犬夜叉 一重梅ノ栞

第9章 一瞬の間



 剣道で剣を磨き続けた日の事を、ふと櫻子は思い浮かべる。この状況下で、何を考えているのだと思うもののあの時学んだことがどれだけ、今目の前で活かせるのだろうと考えてみるのだ。人を斬るために教わった剣ではないということ、ただ技術として磨き続けたこと。

 柄を握る手が、自然と汗ばむ。一鬼の時も感じていたことだが、誰かの殺意を全身に浴びながら戦うことの恐怖と緊張感は、やはり慣れるというものでもない。いや、生まれ育った世界にもよるのかもしれない。


 何せ櫻子が生まれ育った世界は、争いはあれど誰かを斬ったり斬られたりが日常の世界ではないのだから。


「怖気づいてんのか!? 玉依姫さんよっ!」


 三鬼が櫻子へと襲い掛かる。大きな爪が櫻子の身体を切り裂こうと、頭上から大きく振り下ろされる。櫻子は集中するように目を細め、刃でしっかりと攻撃を受け止める。だが、三鬼の力は強い。歯を食いしばりながら、必死に押されぬように櫻子は耐えるのがやっとだ。


「ははっ! その細い腕で本当にその刀を使いこなせるっていうのかよっ!? 笑っちまうぜ!!」

「……くっ」


 両手でしっかりと握り、力いっぱい三鬼を押し払う。三鬼は後ろへと飛び退くと、楽しそうに自らの爪に舌を這わす。まるでこれから、その爪で獲物をほふるのだと宣言するかのように。

 櫻子から少し離れた場所では、既に二鬼と殺生丸の激しい攻防戦が繰り広げられていた。

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