第8章 争いの風
「あれ……」
ふと櫻子は足を止める。それに反応するように、殺生丸も足を止め振り返った。
櫻子は羅刹桜牙がかたかたと震えていることに気付いたのだ。刀が震える? これが意味するものとは……。
「また、鬼か」
殺生丸の呟きと共に、目の前にいきなり稲妻が落ちる。
「お前が玉依姫かい? どう思う? 三鬼(さんき)」
「ああそうだなぁ、とても弱そうに見えるぜニ鬼(にき)」
男女と思われる鬼が降り立つ。その姿は一鬼の時と異なり、意外にも人の形をしていた。突然の戦闘に櫻子は腰にある刀の柄を掴む。しかし、殺生丸がまるで櫻子に下がっていろとでも言いたげに、手で制した。
「なんだ、妖怪と一緒だとは聞いてないなぁ! どうするよ二鬼」
「そんなことアタシらにはどうだっていいことさ。んで、あんた妖怪の癖にどうしてその玉依姫と一緒にいるのさ? その理由くらいは知りたいものだねぇ」
「ふんっ……貴様ら鬼に、語る言葉などない」
殺生丸は右手を構えると、鋭い爪を見せつける。そんな様子の殺生丸に、二体の鬼はくすくすと笑う。
「お前、聞いたことあるぞ! 殺生丸とかいう妖怪だろう? 確か犬夜叉とかいう半妖に片腕を切り落とされたらしいじゃないか」
「え……?」
櫻子が反応を見せる。そういえばと……ふと考えてみる。意識して相手が五体満足かどうかなど、普通は確認しないだろう。だからこそ気付かなかった。初めてそれを知った櫻子は、殺生丸の方を見つめる。彼女の前に出ているせいか、殺生丸の表情どころか背中しか見えない。
櫻子は刀に触れたまま、動けない。
「口だけは達者なようだ」
「あははっ、これは傑作だ。もう手早くやってしまおうぞ、三鬼」
「それもそうだな、二鬼。俺の力を見せてやろう!」
三鬼が拳を振り上げ、地面へと拳を叩きつける。するとひび割れが起きて地響きに似た振動が発生する。亀裂と共に大きな竜巻が巻き起こり、殺生丸へと襲い掛かる。