第8章 争いの風
人でない妖怪の心というものは、人とどれだけの違いがあるのだろうか? 違いなんて、あるのだろうか? 今の櫻子にはわからないことだったが……いつか、いつかわかる時がくればいいと思うのだった。
少し眠った後、太陽の眩しさと共に一行は再び歩き始める。りんはたまに阿吽に乗りながら、櫻子は意外と平気そうな顔をしてどんどん歩いていく。ぴったりと、殺生丸に着いていくように。
「お、お待ち下さい殺生丸様っ……ぜぇはぁっ」
しかし、どうやら邪見だけは違うようだ。へとへとになりながら、なんとか着いて行っている。
「邪見さん、まだ歩き始めて三時間ですよ? そんなことではいけませんよ」
「お、お前はどんな体力をしておるのだっ!! とても人間とは思えんぞ櫻子!! くっ……はぁ、はぁ……」
「脆弱な」
殺生丸がそう吐き捨てると、邪見は本日一番の落ち込みを見せた。そんな邪見を励ますりんの声を聞きながら、櫻子は殺生丸の背中を見つめる。
――逞しい背中なのです。
こうして彼らと共にいる間に、櫻子はいつの間にか殺生丸の背中を見ているのが好きになっていた。頼りがいがあって、臆する様子など微塵もなく、大きくて広いその背中は男性特有のもの。妖怪とはいえ、姿は人の形をしている。
今まで男の人の背中を見ながら歩いたことがほぼなかった櫻子にとって、殺生丸の背中はある意味興味の対象だったのかもしれない。じっと見つめていると、知らない間に癖になったらしい。
彼の背中を見る為だけに、頑張って後ろをぴったりと着いていくようになったのかもしれない。