第8章 争いの風
「櫻子。少し散歩に付き合わぬか?」
「……え? いいのですか?」
「ああ……お前さえ、良ければな」
「はいっ! 是非お願いします」
思わぬ殺生丸の申し出に、櫻子は笑顔で応える。二人で立ち上がると、その場を少し離れるように暗い道を歩いていく。
何を話せばいいのか……いざ散歩と言われても、殺生丸にどんな話題の話を持ち掛ければいいのか櫻子は悩んでいた。深刻に悩む必要もないだろうに、その表情はまさに真剣そのもの。殺生丸は横目で呆れたように見つめていたが、そんなことを櫻子が知る由もなかった。
「おい、櫻子」
「……へっ!? あ、はい。なんでしょうか」
心の中でも覗かれただろうか?
そう思いながら、少し慌てた様子で答えた。
「……向こうで、知り合いには会えたか?」
「え……?」
「……」
「……あっ、私の時代のことですか!? はいっ、ちゃんと会えました。お父さんも透兄さんも元気そうで……とてもほっとしたのと同時に、このまま帰らないで置こうかなとも思いました」
「ならそうすればよかったではないか」
「はい……ただ、その場に羅刹桜牙も持ってきてしまっていて……刀を見た時に、ああ夢ではないのだと実感して……何やら、このままなかったことにしてしまうのは駄目な気がしたのです」
櫻子は腰にある刀に触れる。最初は恐怖も不安もあった、迷いだって……まだある程度はある。けれどその手に残る羅刹桜牙の感触に、思い知らされる。やはり自分は玉依姫の先祖返りらしくて、この刀を手にしているのは現実なのだと。