第7章 見えずとも聞こえずとも
「きっと紅葉さんが、私と桔梗さんを巡り合わせてくれたのだと思います。こんなにも胸の奥が熱いのは、紅葉さんと温かな心が桔梗さんを想っていたことを教えてくれるから。それはつまり、紅葉さんはちゃんと救われていたってことなのではないかと思うのです。こんなにも強く桔梗さんに大事に思われて、命を絶やしてしまったのだとしても……」
櫻子は瞳に涙を滲ませながら、恐れることなく桔梗へと一歩踏み出す。彼女の小さな手をぎゅっと握っては言葉を続ける。
「紅葉さんは、幸せだったと思います。だって桔梗さんに未だに大切に想われているのですから。そうでなくては、困ります」
「……不思議だな」
桔梗は少しだけ困ったように、けれど口元を緩ませながら櫻子の手を握り返す。
「どうしてか、お前にそう言われると……まるで紅葉が私に言ってくれているように聞こえてくる。あいつにとって、人生とは幸せなものだったのだろうか」
「嫌なことも、辛いことも、沢山あります。でもそれは幸せだから。その証なんだと、私は思うのです」
大切な人がいる。守りたい人がいる。守れなかった人がいる。
桔梗は今、何を思うのだろうか?