第7章 見えずとも聞こえずとも
「纏わりつく妖気に、まず普通の人間が触れれば発火し消滅する。強い霊力を刀は求めているのだと……すぐにわかった。そして選ばれたのが私と紅葉。刀を手にするのには、リスクがあった。自我が失われる恐れがあった」
妖気を纏い羅刹桜牙。触れた者が例え生きていたとしても、その妖気に取り込まれ自分自身を失う恐れがあった。その妖気を浄化し、無力化出来るとするならば霊力が強い者くらいなのだろう。
「紅葉さんは、桔梗さんが本当に大切だったんですね。だからこそ自ら……」
「さあな。最早あいつの本心など、わかるはずもない。だがあいつの選択は、結果として村を救った。けれどやはり恐れていた事態は起きた」
「……!」
「刀は徐々に、紅葉を呑み込んでいく。全てが分からなくなってしまう前にと、紅葉は自らの命を持って刀を封印した。同時期に、私は自分の霊力の扱い方を学び村を守れる程にまでなった。けれど……一番大切な友を、救うことは叶わなかったがな」
どんなに想っていても、人の為せる力はほんの一握りに過ぎない。何度無力な自分を呪えばいいのだろう? 同じ夜を繰り返して、失った者のいない世界でどう生きていくのか。
「それでも……! 私は思うのです。紅葉さんはちゃんと救われていたと!」
「ふっ……慰めのつもりか? そんなものなら、いらない。勝手なことを言うな、小娘が」
「いえ……だって、私がこうして桔梗さんに会えたのは偶然ではないと思うからです」
桔梗は櫻子へと視線を向ける。薄らと、紅葉の影が重なったように思えて、目を凝らした。