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犬夜叉 一重梅ノ栞

第1章 狂い咲き白い花



 殺されるのは勿論御免だ。しかし見知らぬ場所、見知らぬ風景。櫻子には頼れる者などいるはずもなかった。少し考えた後、言葉を発しようとしたその瞬間――。


「お待ちしておりました、玉依姫」


 背後から声が聞こえ、櫻子は振り返った。そこにいたのは、巫女姿の愛らしい女性。その女は、殺生丸を一瞥すると櫻子の腕を掴んで建物の中へと急いで引き込んだ。


「玉依姫様! あのような妖怪の近くにいてはなりませぬ。食らわれてしまいますぞ」

「く、食われる……!? よ、妖怪というのは人を食らうのですか!?」

「……そんなことも知らないのですか。まぁ、無理はありませんね……とりあえずこの建物の中ならば安全です。結界を張っておりますので、どうぞこちらへ」


 女に案内され、櫻子は再び建物の奥へと進む。一瞬殺生丸のことが気になり振り返ってみるが、彼は先程と同じように桜を眺めているだけだった。


「ここは伊澄様が取り締まっている寺。常に清められておりますので、安全な場所です。妖怪も襲って来れません」

「あの……此処は東京、なのでしょうか?」

「東京? そのような土地、御座いませんが」

「……そう、なのですか」


 やはり此処は櫻子の知る土地ではないらしい。それを実感した途端、足先から頭のてっぺんまで急激な熱の低下を感じた。不安が満ちる。しかし櫻子を安心させるかのように、女は口を開いた。

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