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犬夜叉 一重梅ノ栞

第7章 見えずとも聞こえずとも



 森を抜け、桔梗と櫻子が辿り着いた先は、白い花が咲く場所。気付けば夜が落ちてきては、景色を漆黒に染めていく。群青色の空が、黒く塗りつぶされていく。もうそんな時間だったのかと……太陽も差し込まない森の中にいたせいか、櫻子は時間感覚が奪われていたことに気付く。

 桔梗は花畑の真ん中まで来ると、目を閉じる。櫻子も遅れて彼女の後を追って中心部へと歩いていく。風が花びらを舞い散らせ、彼方へと連れて行く。このまま自分さえも、何処か遠く知らない場所へと連れ去らんとするかのように。


「刀のことをもっとよく知りたいと言ったな」

「はい……」

「なら、玉依姫について知ることがそれに繋がるだろう。玉依姫……紅葉について」

「紅葉さん……? それが、この魂の以前の持ち主、玉依姫さんのお名前ですか?」

「そうだ。あいつは……この場所が何よりも好きだった」


 白い花びらが宙を舞う。

 蘇る記憶と共に、桔梗の口からそれは語られる。





 ◆




 月の夜、一人の少女が白い花に紛れるように佇んでいた。


「紅葉、また此処にいたのか」

「……桔梗。どうしたの? 貴方にしては、珍しいじゃないの。こんなところにやってくるなんて」

「紅葉の気配がしたからな。お前、本当に玉依姫になるつもりか?」

「はい……。村の外れにある祠に納められている刀。あれを葬る程の霊力があるとするならば、それは私か桔梗しかいないわ」

「私は……」

「わかってるの。ねぇ、桔梗。私貴方が大事……。だからね、この役は私に譲ってほしいの。あの妖刀に宿る妖気を抑え込んで、私の霊力を重ねて力に変換し妖怪から村を守る刀になりたい。私が望んだことなのよ」

「お前はそれでいいのか!? なら、お前を慕っている五樹はどうする!? 玉依姫……巫女になるということは、お前は永遠に五樹とは結ばれないということだぞ!?」

「……ええ、わかっているのよ」


 紅葉は「それでも……」と言葉を続ける。最早桔梗の説得は、意味をなさないのかもしれない。鮮やかで、決意を固めた紅葉の姿は逞しく思える。

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