第6章 下駄を鳴らし彼方
「何者かと、聞いている」
「……櫻子、と言います……あの、この近くに村はないのですか?」
「村? そんなもの、この近くにはないが……」
「そ、そんなはずはありません! 私、あの骨食いの井戸を通り抜けてこの世界に……っ」
「骨食いの井戸……。あの井戸を、通り抜けて? 何を寝ぼけたことを。そもそもそこにある井戸は、骨食いの井戸などではない」
「え……?」
「ただの枯れ井戸だ」
途端に櫻子の額に嫌な冷や汗が滲む。ということは、つまり櫻子はまったく別の場所へと出てきてしまったことになる。櫻子にとってそれは死活問題であった。犬夜叉達と合流出来ないことを悟った櫻子は、無意識に手にしていた羅刹桜牙の刀を握り締めた。
「その刀……微量に妖気を発しているな。お前、妖怪の類か?」
「えっ!? ち、違います! 私はれっきとした人間で……」
「ではその手にある物を、私に見せてみよ」
「差し上げることは出来ません!!」
「……妖気を纏った刀に興味など。そもそも、私は巫女だ。弓以外扱うことは出来ない。さあ、わかったなら早く」
「……わかり、ました」
女性の気迫に圧倒されたのか、恐る恐る刀を覆っていた布を取り去り、その姿を彼女へと晒す。すると、一瞬の女性の顔色が一変した。
「その刀……羅刹桜牙!」
「この刀を、貴方は知っているんですか?」
「……ああ、よく知る女が持っていたよ。いずれ封印する刀だと言っていたが……お前、玉依姫、なのか?」
「あ……えっと、とてもややこしい話だとは思うのですが、私はその玉依姫さんの先祖返りだそうで」
「……先祖返り?」
「はい……話すと、長くなってしまうのですが」
女性は難しい顔をして考え込むが、すぐに答えが出たのか口を開いた。