第6章 下駄を鳴らし彼方
丁度そこには、猫に餌をやっているかごめの姿があった。
「かごめさんっ!」
「あれ? 櫻子ちゃん? どうかしたの?」
「実は私、もう向こうの時代へ行こうかと思うのですが……」
「えっ、もう!? わ、わかったわ。今から準備を……」
「いえ、私一人で向かうのでかごめさんはゆっくりしていて下さい」
「え? でも……」
「井戸を通り抜ければ、すぐに村に出る森に着くのですよね? ならきっと迷いません! 道は覚えていますから」
「それならいいんだけど……気を付けてね? 井戸の祠はあっちよ」
「ありがとうございますっ。行って参ります!」
かごめが教えてくれた方へと歩き出す。祠の扉を開ければ戻って来た時に見た景色が、辺り一面に広がっている。祠は薄暗く、少し気味が悪い。
ゆっくりと近付いて、櫻子は中を覗いてみる。
「どうしてか風の香りがするような気がします……」
しかし彼女が見つめる井戸の底は、ただの土があるのみ。これもあっちの世界に繋がっているせいかのか? 首を傾げるも、とりあえずは来た時のように思い切って井戸へと飛び込んでいく。
少し荷物が重いせいで、勢いよく飛び込んでしまうが支障はないらしい。
無事に足が地へ着いた途端、見上げた先には満月が輝いていた。
「ああ……綺麗なお月様です」
しっかりと荷物を抱えて、丈夫そうな蔓に捕まって登っていく。よいしょ、と井戸の外へと出ると殺風景な森が広がっていた。
「あら……? なんだか来た時と、少し印象が違うような」
そんなはずは……と思いながら村への道を歩いてみるものの、何故か一向に村へ着かない。迷ったのか? 櫻子は辺りを見渡してみる。村どころか人の気配さえもない。
ふと、櫻子の傍を白い生き物がゆらゆらと淡く光るものを抱えながら飛んでいくのが見えた。
「お前、何者だ……?」
「え……?」
声のする方へと振り返ると、そこにいたのは美しい黒髪を惜しげもなく束ねることなく流し、巫女の恰好をした綺麗な女性だった。