第6章 下駄を鳴らし彼方
「冗談じゃねぇよ……」
犬夜叉の呟きは、するりと風に乗って消えていった。
現代の方では、櫻子が既に荷造りを始めていた。
「よし……これだけあれば、暫くは困らないかもですね」
「おい、櫻子。今ちょっといいか?」
「透兄さんですか? えっと、はい。大丈夫です」
「入るぞ」
扉を開けて真剣な表情で、透は櫻子の部屋へと入る。その雰囲気に櫻子も座り直して、透と向き合う形となる。
「櫻子、その荷物はなんだ……?」
「あ! えっと、これはその……」
「……。もし何か事情があるなら、俺には話してくれないか? 俺は……お前が遠くに行ってしまいそうで、心配だ」
「透兄さん……」
「別にどうこういうつもりはない。ただ、何も知らないというのは……家族なのに、寂しいだろう?」
困った表情を浮かべる透に、櫻子は目を伏せながらおずおずと話し始めた。
「えっと……その……ですね。私にも……上手く説明できないのです」
「……」
「もし私が今、透兄さんに言える言葉があるとするならば……それはたぶん、何も言わないで待っていてほしい。それだけなんです」
「櫻子……っ!」
「心配して下さる気持ちは有難いのです。でもこれは、私の問題なので……私の力で、成し遂げさせてほしいんです。時が来たら……あの……全てお話します。なので……!」
「……いつからかな」
透はふっと息を吐くと、困ったように……けれど少し諦めたような顔で真っ直ぐと櫻子を見つめた。