第6章 下駄を鳴らし彼方
笛の音が聞こえる。遠く遠く、空の向こうまで突き抜けそうな程に。
骨食いの井戸の前で、犬夜叉は一人座りながら待ち人のことを思っていた。
「かごめと櫻子はまだかよ……」
ふと、彼の脳裏に櫻子の姿が映る。かごめと同じ現代から来た少女の事を。かごめとはまた違う雰囲気に、性格。井戸へと近付いて、中を覗いてみる。勿論誰もいるはずはなかった。
「犬夜叉、かごめ様達のことが気になりますか?」
「なんだ……弥勒か」
突然現れた弥勒は、犬夜叉の隣に並ぶと同じく井戸の中を覗き込んだ。あるのは妖怪の骨と、その血肉を取り込んでいると思われる湿った土だけ。
「犬夜叉よ、櫻子様のことをどう思いますか?」
「どう思うって……何がだよ」
難しい顔をする犬夜叉に、弥勒は一人微笑んだ。
「いえ、随分と気になっている様子だったので。何か気になる点でもあるのかと」
「はあ? 俺がなんで櫻子のことを気にしなくちゃいけねぇんだよ」
「あの殺生丸と一緒にいたのです。気になる気持ちも、多少はわからなくはないですよ」
「……そもそもあの殺生丸が、人間の女を連れているわけがないんだ……」
「そうですね。あの人の性格を思うと……ただ、後で聞いたでしょう? 刀々斎様のお言葉を」
「ああ……。あの時殺生丸は、青い光に包まれて忽然と姿を消した。それが……あの天生牙の力だって話だろう?」
「ええ、天生牙は癒しの刀。人を慈しみ思う気持ちが刀に力を与えると……。つまりそれに、櫻子様が関わっているという可能性は?」
「櫻子がいたから、天生牙は殺生丸を守ったとでも? けっ、んな馬鹿な話あるかよ」
犬夜叉は不機嫌そうにその場を立ち去っていく。事実かどうかはわからなくとも、櫻子の存在が無関係とは言い難い。