第5章 戦国と現代
「殺生丸様!? 何を……っ」
邪見が驚いているのも気にも留めず、刀を鞘に戻して殺生丸は少女の身体を軽く抱き上げる。すると……少女から、僅かに息が漏れる。ゆっくりとその瞳は、色を取り戻して開かれる。
「なっ!? い、生き返った!? もしや殺生丸様……その刀で娘をお助けに!? あれ?」
邪見が騒いでいる内に、殺生丸は興味を失ったように先を歩いていく。少女は殺生丸の方へと真っ直ぐ走っていく。先程まで地に伏していたとは思えぬほど、元気に。邪見も置いて行かれぬようにと、後を追いかけ始める。
そんな中、殺生丸は空を仰いだ。
「櫻子……」
此処にはいない、彼女の名を呟いて。殺生丸の呟きは誰の耳にも届かず、ただ消えていく。
幼い少女を連れた殺生丸達は、櫻子の行方を探しに行くわけでもなく、再びあてもなく彷徨い始める。
現代で身体を休めていた櫻子は、自室で剣道着を見つめていた。所々破れており、今までの出来事は全て現実だったのことを改めて実感する。そして一本の刀、羅刹桜牙。それを手にすると、鞘から抜いてみる。
「綺麗な刀身……」
常に竹刀だけを見つめ、握ってきた彼女には重い一振りの刀。大事に再び鞘に直すと、櫻子はベッドへと寝転がる。
「殺生丸さん、今頃何をしているのでしょうか」
向こうに再び戻って再会は出来るのか、もしかしたらもう二度と会えないのか。そう思うだけで何処か寂しいと思っている自身に櫻子は気付く。
彼女の世界は、突如現れた鏡の力により変えられてしまう。知らなかった時に戻ることは出来ない、知ってしまったが故に背負うことになった玉依姫の運命。いくら誰に背負うことはないと言われようとも、魂を宿す限り櫻子が玉依姫の先祖返りという事実が覆るわけではない。
本人もそれを理解している、だからこそ刀を握る。自らが決めた未来に向かって、それを現実のものとする為に。
「二日後……なんだか、それまで待てない気がします」
布団の中へと潜り込むと、櫻子は瞳を閉じた。次に目が覚める時は、明日という名の朝がやってくる。心の中で「明日には帰ってしまおう」と決めて、眠りへとついた。