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犬夜叉 一重梅ノ栞

第4章 繋がる血の濃度



 犬夜叉の足に櫻子が敵うはずもなく、すぐに追いつかれて先回りをされる。目の前に降りて来た犬夜叉に驚きながらも、櫻子は睨むような瞳で彼を見ていた。


「私にも、数個年上の兄がいます……。けれど一度も私は貴方達のように、喧嘩をしたことがありません。羨ましいなどと、愚かなことを言うつもりはないんです! ただ……喧嘩をしないと同時に、私は本音で兄と話すことがありません。心の内を見せ合うことは、ないんです」

「……櫻子」

「衝突し合える血を分けた者がいるのに、殺し合うだなんて……そんなの悲しすぎます。本音でぶつかり合えるのに、もっと……それなら仲良く出来る術もあるはずです」

「そんな生易しいもんじゃねぇんだよ、俺と殺生丸は」


 犬夜叉はゆっくり櫻子に近付くと、そっと手を伸ばす。怒られると思った櫻子はぎゅっと目を閉じるが、犬夜叉はその姿を見て申し訳なさそうにただ彼女の頭を撫でた。


「……え?」

「俺は殺生丸と違って半妖だ。本物の妖怪じゃない。妖怪の親父と、人間のお袋の間に生まれた子だ。殺生丸にとって大妖怪である親父の血を受け付きながらも、人間の血が混ざっている半人前の半妖の俺がさぞ憎いのさ」

「そんなこと……」

「その俺が、あいつが欲しくて堪らない鉄砕牙を親父に託されたことが更に気に食わないんだろう。まぁ……俺があいつの立場だったら、同じことを思うのかもしれねぇがな。だが同調はしねぇ。それは今の自分を否定することになるからだ」


 櫻子は静かに彼の言葉に耳を傾ける。何も知らない自分、殺生丸の事も。この世界の事、何もかも。大人しくなる櫻子に、犬夜叉は撫でていた手を離した。


「兄弟ってよ、周りが思ってるより気持ちいいもんじゃねぇし、単純なもんでもない。お前もそうじゃねぇのか? お前の兄貴がどう思ってるかは知らねぇけどよ」

「私にはそこまでわかりません。ただ私にとっての兄は、いつだって逞しくて頼りがいがあって私の剣の目標でもありました」

「へぇ……女で剣が出来るのってのはすげぇな! 今度俺と手合せしろよ」

「いいですよ。きっと犬夜叉さんには負けると思いますけどね」

「勝つとか負けるとかどうでもいいだろ!」


 にかっと笑う犬夜叉に、つられるように櫻子も笑みを向けた。

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