第1章 狂い咲き白い花
「やっぱり綺麗なのです」
鏡を覗き込めば、自らの姿が映る。しかし……じっと眺めていると、不意に鏡の中の自分が波紋のように揺らいで見えた気がした。
「……っ!!」
突如、目が眩むほどのまばゆい光が蔵の中を満たし始める。櫻子は思わず瞳を閉じた。一体何が起こっているのか? それを確かめる暇もなく、白い光に包まれて櫻子は意識を失った。
耳元で鳥がさえずる声が聞こえる。櫻子はゆっくりと瞼を開けた。あんなにも暗かったはずの視界は大きく開けており、暖かい太陽の光が室内を満たしていた。それに驚く暇もなく起き上れば、辺りは見知らぬ場所。驚愕よりも先に、戸惑いの方が大きかった。
「……此処は、何処なのでしょう」
寒くない?
身を包み込むのは、春に似た暖かな風。どういうことなのか……あまりにも静かな為、櫻子の中に恐怖心は自然となかった。ただ先程いた蔵ではないことを理解すると、ゆっくりと探索を始めるのだった。
廊下を歩くと、木の軋む音が聞こえる。お堂のような、寺のような建物に櫻子はついきょろきょろとしてしまう。古風な建物が昔から好きな櫻子は、ある種の観光のような気持でいた。危機が薄いのもどうかとは思うのだが……そう心の内では思っていても、所謂好奇心には勝てない。
一通り見て回ると、ひらりと何処からか桃色の花びらが舞い込んでくる。一体何処から?
櫻子はその花びらを追いかけるように、建物の外へと飛び出した。