第1章 狂い咲き白い花
「では行って参ります!」
「はいはい、いってらっしゃい」
透に見送られ、駆け足で櫻子は蔵への道を走る。走る度に白い息が漏れ、寒さを全身で感じる。剣道着は少し薄着な為、何か羽織ってくるべきだったと途中で考える櫻子だったが、時すでに遅しとはまさにこのこと。蔵へと着いてしまった今は、もういいかという考えが過った。
扉を開けて覗いてみる。確かに透が言った通り、薄暗くて灯りがないと何も見えそうにない。急いでいたため、何も灯りを持っていない櫻子は、忠告通り扉を大きく開けて中へと入った。
埃っぽい蔵の中は、様々な骨董品が置いてあり所謂宝の山状態。しかしそんなものには興味ない櫻子からすると、これにどれだけの価値があるのだろうとか思う程度。勿論物の価値などそれを知る者にしか、到底理解できないことなのだろうが。
「……ん? 奥で、何か光っている気が……」
ふと視線を向けた先に、何やら入口から差し込む太陽の光に反射しているのか、奥で光る物がある。
――剣道の防具を取りにここまで来たわけですが、初めて蔵に入ったわけですし……少しくらい見て回ってもいいですよね!
足元に注意しながら、奥へと歩みを進める。
そこにあったのは、綺麗でシンプルな装飾をされている鏡。どうやら鏡に光が反射して、光っていたようだ。櫻子は徐にその鏡を手に取ってみる。
「凄く綺麗なのです! えっと……あ、裏側に何か書いてありますね。"魔天鏡"……というのが、この鏡の名前なのでしょうか?」
鏡が薄く曇っていたのがつい気になり、櫻子は袖で鏡を拭いてみる。少し埃が被っていただけらしく、すぐに鏡は美しい姿を見せた。