第3章 魂の応え
「我を倒せたらその羅刹桜牙のことを少し教えてやろう。さあ、来い玉依姫」
「参ります……っ!!」
ぐっと右足で踏み込み、風を切り走る。内心恐怖で心が締め付けられる、けれど櫻子に迷いはない。一鬼が金棒を振えば、その瞳でしっかりと動きを捉え間一髪避ける。
「櫻子のやつ、意外とやるではないか……っ!」
「だがあの調子では……」
殺生丸達は少し距離を置き、二人の戦いを見つめているだけ。手を出さないというよりかは、一鬼に傷をつけることが出来るのは羅刹桜牙だけ。
「殺生丸様……櫻子のやつ、大丈夫でしょうか?」
「ふんっ、あんな人間の女のことが気になるのか? 邪見」
「とんでも御座いません! この邪見があのような人間の娘を気にかけるなど! ……ただ、あの娘……度胸だけはあるようで」
「くどいな。度胸だけではあの鬼は倒せん」
殺生丸の言葉の通り、櫻子が思い切り一鬼の足を斬り付けにかかるが、鈍い音と共にはじき返される。その振動で櫻子の腕に痺れが伝わる。
「いっ……!」
びりびりと伝わる衝撃に、思わず櫻子は顔を歪めた。その隙を狙うように、一鬼の金棒が襲い掛かる。櫻子は咄嗟に避けるが体制を崩してしまい地面へと滑り込む。
「せっ殺生丸様! このままでは櫻子は……っ」
「煩い。少し黙っていろ邪見」
一歩、殺生丸が櫻子へと近付く。
「どうした? もう終わりか、女」
その言葉に反応するように、櫻子は起き上る。剣道着は砂で汚れ、頬に擦り傷を作っている。それでも櫻子は刀を離さない。
「確かに私には真剣を扱う力はないのかもしれません……いつも竹刀しか手にしたことがなく、まだまだ未熟者です。でも……っ」
ぶわっと櫻子の周りに風が巻き起こり始める。羅刹桜牙がまるで彼女の心に応えるように、かたかたと震えていた。