第3章 魂の応え
「ですが見ての通り、帰り方がわかりません。この世界で私は知り合いがいません。お願いします、少しの間で構いませんので一緒にお共させてもらえませんか?」
「断る。何故私が人間などを連れて歩かなくてはならん」
「そうですよね……すみません。自分で何とかしてみます、それでは」
櫻子は肩を落とすが、しつこく殺生丸に言い寄ることはしなかった。その様子に、殺生丸はじっと視線を向けた。櫻子は軽く会釈すると踵を返し、一人で歩き出そうとしている。しかし……一瞬殺生丸が目を細めると意外にも声をかけた。
「女、止まれ。死ぬぞ」
「え……?」
殺生丸の声に反応し、櫻子は立ち止まる。その瞬間、目の前で金棒が勢いよく落下してくる。
「な、何ですか!?」
「鬼か……」
前方へと目を凝らして見る。櫻子達の視界に入ってくるは一体の鬼。頭に一本の角を生やしている。櫻子は目の前に落ちてきた金棒を眺めては、もし殺生丸が声をかけてくれなければ今頃……と考えたところでぞっとする感覚を覚える。
姿を現した鬼は、いきなり舌打ちをかましてきた。
「ちっ、もう少しで玉依姫を仕留められたのにな……」
「(玉依姫? この鬼……ただの鬼ではないのですか?)」
「ふん……相変わらず鬼というのは悪趣味だな」
「あ? お前は……聞いたことがあるぞ、犬の大妖怪である殺生丸だな? 珍しいなぁ。人間と一緒にいるところなど初めて見たぞ」
「……戯言はそこまでか?」
殺生丸の癪にでも触ったのか、彼は一気に飛躍し鬼を仕留める為爪を光らせる。鬼はその様を眺めながら何故か一歩も動く様子がない。しかし殺生丸にとって、そんなことはどうでもいいこと。