第2章 絡み付く運命
「やめて下さいっ!!」
櫻子が力の限り叫ぶ。すると、ぴくりと殺生丸が眉を潜める。その手が振り上げたまま、固まっている。
「殺生丸様……?」
一向に殺生丸の爪が櫻子を襲う様子がない。おかしい……。その異変に気付いた櫻子も、おそるおそる殺生丸を見た。
「女……"言霊の念"が使えるのか」
「言霊の、念……? い、いえ……私は何も」
「玉依姫の神通力か。言霊の念には二種類ある。"攻(こう)"と"守(しゅ)"……」
「邪見が説明致しまする殺生丸様。攻とは言葉の通り、攻撃の為の念。言霊により相手を攻撃することが出来る念。守は逆に防御の為の念。言霊により強固な防御壁を構成することが出来る念と言われておりますが……」
「どうやら女。貴様は守の念を得意としているらしい」
「つまり……私は今、守の念を使った為……無事なのですか?」
「……」
無言は肯定の証。殺生丸は戦意を失ったように、手を下ろした。櫻子は未だ刀を構え様子を伺っているが、殺生丸はすぐに彼女に背を向けてしまった。
「いいだろう。今暫くその刀、女に預けておこう」
「……櫻子」
「なんだ?」
「私の名は、櫻子です」
「ふんっ……」
殺生丸は歩き出す。邪見は預かっていた鏡を櫻子へと渡す。
「命拾いしたな、櫻子」
「邪見さん、鏡ありがとうございます。助かりました」
「ふ、ふーんだっ! お礼を言われたからって邪見優しくしないもんねっ!!」
邪見はすぐに殺生丸の後を追う。
鏡を見つめながら、櫻子は意を決したように殺生丸へと声を張り上げる。
「殺生丸さんっ!!」
櫻子の声に反応するように、殺生丸は軽く振り返る。
「一緒に、連れて行ってもらえませんか……?」
一枚の桜の花びらが、二人の間にひらりと舞い落ちた。