第15章 一重梅と共に
「これは貴方が持つべきものです。私とこの刀は同じ時を生きない方がいいと思うんです」
「……そうだな」
殺生丸は刀を受け取り、大事にそうに腰へとさす。それを見て櫻子は、少しだけ嬉しそうに笑った。
「何がおかしい?」
「いえ、おかしいのではないんです……。長いようで、短い時だったなとふと思いまして」
「そうだな……初めに見たお前は、今よりもっと頼りない顔をしていた」
「……すみません」
「いや、今は……違うな」
不意に、殺生丸は櫻子の腕を引く。そのまま優しく腕の中に抱いた。
「殺生丸さん……っ?」
「いつの間にか、お前が一緒にいるのが当たり前になっていた。だが……それは当たり前などではなかったのだろうな」
「……」
「お前から貰ったものは、この刀と……お前の傍にいたいという気持ちだ」
「え……」
殺生丸は櫻子の額にキスを落とした。
その行為に気付いた櫻子は、みるみる内に顔を赤らめる。その姿を見て、殺生丸はどことなく困ったように笑って見えた。
「行くのか……」
それが意味しているのものに気付き、櫻子は無意識に目を伏せた。
「はい……。私の役目は、終わりました。帰る術も、今はきちんとわかっています。全ての目的が……今、終わったんです」
「そうか……」
「殺生丸さん」
櫻子は顔を上げ、両手で殺生丸の頬を包み込むと自ら彼の唇に、自分の唇を重ねた。