第15章 一重梅と共に
「……好き、です」
「……櫻子……」
「私も、こんな気持ち……知らなくて……わからなくて……でも、温かくて心地よい気持ちだと思うんです」
「……ああ」
「殺生丸さんは、どうなのでしょうか……?」
言葉の代わりにするように、殺生丸はぎゅっと櫻子を抱きしめた。
「ああ、そうだな……。この、愛しいという気持ちは……お前と同じものなのだろう」
その手に救われて守られて、それはどちらか片方ではなくお互い様で。何度も繰り返すように痛みを知り、短い時の中で同じ時間の流れに身を任せて刀を握っていた。
多くは知らないけれど、まったく知らないわけではないお互いをいつしか意識して。
殺生丸は切ない声で……初めて櫻子に告げる。
「……感謝している」
「……っ、や……やめて下さい……そんなっ」
「櫻子。お前と出会ったあの時から、見初められていたのかもしれない。でなければ、人間など傍におくまいと思っていた私が……傍にいることを許すはずもない」
「……そんな嬉しい事……言わないで下さいっ」
涙を零し始める櫻子に、殺生丸は指で掬い上げ拭う。視線を絡めて、月の下で互いの顔を確認しては笑ったり泣いたりしている。
「忘れるな、私の事を。何処に居ても、私はお前を見守っている……」
「……はいっ」
「だがいつしかお前に愛する男が出来た時、同時に私のことは忘れろ……よいな?」
「っ……」
答えは返さないまま、櫻子はただ彼にしがみつくように背に腕を回した。