第14章 逃亡者の葛藤
「玉依姫から……出来たもの?」
羅刹桜牙。初めて見たその刀は、私にとってどんな価値があるのかどういう物なのかさえわからなかった。ただ、それよりも私は……桜の木の下で立っていた一人の妖怪に目を奪われていた。
あれが、私が見たこの時代の初めての光景だったのを今でも覚えている。
そこから、殺生丸さんによくして頂いて……ここまでやってきた。
「そうだ。元々、その刀自体に特別な力なんてなかったのさ」
玉依姫の先祖返りだとか、その魂を持つ者としての宿命だとか言われたところで、勿論私にはそんな実感はなかった。それはただのお伽噺の一説に過ぎなくて、もしかしたらこれは夢なのかもしれないと……そう思った。
けれど手にした刀の重みを、間違えるはずがない。これは現実。
そうと知った時、私は此処でどうするべきなのかを考えるようになった。逃げることよりも、私が此処にいる意味を一番に考えていたのかもしれない。
羅刹桜牙の力を取り戻すことが使命だと言われて、じゃあそのために私は此処に呼ばれたのかなって思っていた。でも……。
「羅刹桜牙は確かに大妖怪の牙から作られた刀だ。でもな、間違えちゃいけない。本当に力を持っているのは……その玉依姫の魂だ」
「私の持つ、玉依姫の魂が……羅刹桜牙の持つ力の源とでも言うのですか?」
「そうだぞ! 知らなかったのか? だから犬の大妖怪が、その力を使われない様に羅刹桜牙で封印していたんだ。その刀は"封印の刀"だからな」
「玉依姫が直接、刀を封印したのではないのですか!?」
「あ? ああ、間違って伝わってるのか。その逆だ、玉依姫の穢れた魂による力が……その膨大な五つの力を生み出した。それを恐れた犬の大妖怪が、刀ごと封印した」
「封印の力が弱まっているっていうのは……?」
「お前が生まれたからじゃないか?」
全てには何かしらの意味があると、誰かがそう言ったのを覚えている。
でも、でもこれじゃあまるで……。