第9章 7。
「…死ぬなら、巨人に食べられて死にたいなぁ」
私はそう呟きながらため息をつき、苦笑いを浮かべた。すると、先ほどまで走らせていた馬の速度が明らかに落ちていることに気づき、「仕方がない」と小さく呟いて再びため息を吐き、馬から下りた。そして、一度馬の頭を撫でてから片手で手綱を持ち直し、歩き始めた。
何度も「早く戻らなければ」と頭の中で呟き、そのことは重々承知している。しかし、今の私の足は鉛を括り付けられたように重く、歩みは非常に遅い。
私は何度目になるか分からないため息をつき、手綱を握っていない方の手に持っているから預かったマントと二通の手紙に視線を移し、一度胸に抱きしめた。そして、口角を上げて小さく微笑みながら、彼女と過ごした時間の余韻を感じたくて夜空を見上げた。
私は足場の悪い草木の間を歩きながら、鬱蒼と生い茂る木々の合間から見える夜空を見上げた。木々の隙間からは、幾千もの星が瞬いているのが見える。
これまで、こんなにしっかりと空を見上げる時間がどれほどあっただろうか。忙しいと言っても、全く時間がなかったわけではない。それでも、私は今、空を見上げながら感慨深い気持ちを抱き、余計なことは何も考えずに目の前の美しさに酔いしれた。
時折、この場を吹き抜けていく夜風が木々を揺らし、周囲の鬱蒼と生い茂る草木が音を立てて揺れている。私は吹き抜けていく夜風と草木が揺れる音に耳を澄ませながら、「いい夜だ」と思った。私以外にこの場に誰もいないのを良いことに、一度手綱を放して大きく背伸びをした。
そして、視線を共に歩いている馬の背中に移し、先ほどそこにいたリヴたちの姿を思い出した。二人の境遇や生活は「普通」とは言えないだろう。
一般家庭から見れば、「変わっている」と思われるかもしれない。しかし、いつかその現実に「変化があればいいな」と思いながら胸に抱えているマントと二通の手紙を抱きしめ直した。そんなことを考えながら馬の背中を見つめていると、切なさと恋しさを心に抱きつつ、心が温まっていくのを感じた。
「ねぇ、リヴァイ…君の息子はとても可愛かったよ。名前はリヴで、今5歳なんだ。とても元気で素直な子だった」
そして、私は静かに呟き、この場にいないリヴァイに語りかけた。馬の背中を優しく撫でながら、再び夜空を見上げた。