第8章 6。
「シイナ、大丈夫?辛くない?」
「大丈夫だよ。私にはお母さんたちがいたから。でも、私とルアが体験した状況は比べものにならないよ。」
私はシイナに問いかけると、彼女は覆っていた両手を外して答えた。
「私は何もしていないよ?」
「そばにいてくれた、それだけで十分なの」
しかし、彼女の表情は暗く、「大丈夫だ」と心の底から言っているわけではないことがすぐに分かった。それでも、彼女は微笑んでくれた。
私はその微笑みを見て、心の中で自分自身に「大丈夫だ」と言い聞かせ、微笑み返しながら、洗濯物を畳む手を止めずに小さく深呼吸を繰り返した。
私がシイナにしてあげられたことは、ほんの些細なことに過ぎない。シイナが言うように、彼女はルアとは異なり、常に家族と一緒に過ごしていたわけではなかった。
そのため、何か言葉をかけるよりも、変わらず日常を送ることを最優先にした。私自身、兵士を辞めてから情緒不安定な時期が続いた際、彼女はあえて日常生活を何も変えず、普段通りの生活を送れるように心掛けてくれた。
その言動は小さなことかもしれないが、兵士としての生活とは異なる一般的な生活に慣れるための練習にもなり、とても感謝している。
「あの子には、まだまだ時間が必要だよ…だから、もうあの子を一人にさせない」
「…そうだね、リヴも同じことを言っていたよ。私も同じ気持ちだよ」
私はシイナの言葉に耳を傾け、頷いた。
最近、ようやくこの家の中にルアの泣き叫ぶ声が響かなくなった。私たち3人は、その現実を何よりも嬉しく思っている。
しかし、実際にはルアが我慢しているのではないかと心配になることもある。しかし、普段リヴと2人で過ごしている様子や、私たち4人で過ごしているときの様子を見れば、それは杞憂であると実感できる。
しかし、シイナが言うように、ルアにはまだまだ時間が必要だ。もしかしたら、この先何年経っても、あの子の傷が癒えることはないかもしれない。
それでも、あの子はもう一人ではなく、これからも絶対に一人にはさせないと私たちは誓った。そう思いながら、私は、テーブルに頬杖をついてまぶたを閉じているシイナを見つめた。
そして、私はふとシイナと出会ったときのことを思い出し、小さく微笑んだ。