第7章 5。
私は、私を見つめるの表情や雰囲気に思わず背筋を正し、その「お願い」という言葉を聞いた瞬間、嫌な予感がして首を左右に振りたくなった。
「…そのお願いを聞くかどうかは、話を聞いてから判断するよ」
しかし、すぐには返事をせず、私はの顔を真剣に見つめた。なんとなく簡単なお願いではないことが容易に想像できた。
それでも、話を聞く前から「無理だ」と突っぱねることはしたくなかった。私がここに来た理由は、できる限りのことをして、全力で向き合うためだ。
すると、私の反応を見たは席を立ち、「少し待っていてください」と静かな声で言い、杖を突きながらゆっくりと奥の部屋へ歩いて行った。
私はその後ろ姿を見つめながら、テーブルの上で握りしめていた手で顔を覆い、気分を落ち着かせるために深呼吸を繰り返した。
そして、は数分もしないうちに奥の部屋から戻ってきた。私はその気配を感じ、顔を覆っていた両手を外して、一度窓の外を見た。それから、に問いかけた。
「ねぇ、リヴたちはまだ帰ってこないけど…大丈夫なの?」
「ええ、大丈夫です。意外とシイナはたくましいですから」
「そっか、でもこの街も決して治安が良いとは言えないか…って…え…そ、それ…まさか…」
リヴたちの帰りが遅いことを心配しながら、奥の部屋から戻ってきたに顔を向けると、私は思わず目を見開いて言葉を失ってしまった。
すると、彼女は私の反応を見て苦笑いを浮かべ、「そのまさかです」と言った。
そして、杖をテーブルに立てかけて再び椅子に座り、奥の部屋から持ってきたものをテーブルの上に静かに置いた。
「…それ…まだ持っていたの…?」
「はい…情けないでしょう?私の言動は矛盾に満ちていて、未練がましいにもほどがあります。これも、なかなか処分できずに、息子に「リヴ」という名前をつけてしまった。兵士を辞めたことや姿を消す決断をしたことには後悔はなかったはずなのに…現実は、なんとも惨めなものですよ」
は声を震わせながらそう言い、目を見開いて言葉を失った私の目の前にある物を差し出した。それは、かつてが調査兵団の兵士であった証である深い緑色の「自由の翼」の刺繍が施されたマントだった。