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空を見上げた。

第7章 5。



そして、は私にトロスト区が巨人に襲撃された日の出来事の詳細を話してくれた。話し終えた後、彼女は両手で顔を覆い、「どうして…」と小さく呟いた。

私も聞かされた話の内容に言葉を失い、両手で顔を覆った。椅子の背もたれに体を預けると、全身の力が抜けていくような感覚を覚えながら、深く長いため息をついた。

リヴたちに二人の関係についての話を聞き、現在ルアがこの家で暮らしていると知ったとき、ある程度の想像はついていた。それでも、改めてルアが体験した話の詳細を聞くと、何も言葉が思い浮かばず、出てこなくなってしまった。

その場には、椅子の背もたれに寄りかかり両手で顔を覆う私のため息と、同じように両手で顔を覆いながら「…どうして…」と鼻声で何度も小さく呟くの声が、妙に大きく響いているように感じられた。

きっと、が考えていることは「なぜルアの母親が亡くなったのか、なぜ自分ではなかったのか」ということだろう。私は彼女の気持ちを測りかねていた。は兵士を辞めてもなお、兵士であった時の心構えを失ってはいないのだろう。

兵士だった頃、彼女は自分なりに大切な仲間の死を受け入れられたのかもしれない。いや、受け入れて乗り越えざるを得ない状況に常に置かれていた。

しかし、兵士を辞め一般市民となり、子どもを産み母親になったことで、兵士だった頃には抱かなかった感情を抱くようになった。

そして、一般人として新しい生活を歩み始めた中で知り合ったルアの母親は、同じ母親であり、事情を理解している人物として、にとって代えがたい存在であったに違いない。

一般人として新たな人生を歩み始めていたにとって、ルアの母親が巨人の襲撃によって命を落としたことは、容易に受け入れられる現実ではなかっただろう。

そう思いながら、顔を覆っていた両手を外し、閉じていたまぶたを開けた。そして、の姿を見つめながら再びテーブルの上で両手を強く握りしめた。

何か言葉をかけたいと思ったが、軽々しく言葉をかけることはできなかった。きっと私も、の立場であれば、同じことを考えたことだろう。現役の兵士である私たちも、仲間を失う痛みに完全に慣れることはない。

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